凍滝のあまりに絵空事に似て       野田禎男

  • 2008/06/20(金) 06:17:27

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凍滝のあまりに絵空事に似て       野田禎男
                       「吉野」二月号〈冬日〉より


 滝は、自然の風景に大きなアクセントをもたらす造形である。

 春夏秋冬さまざまな表情を見せるが、流れ落ちるまま凍ってしまう「凍滝」は、その真骨頂であろう。

 「滝」という「動」の最たるものを瞬間のうちに「静」に変えてしまうダイナミズム。

 「あまりに絵空事に似て」いるリアリティに圧倒される作者の姿が率直に表現された。

 「吉野」は平成一八年四月に創刊した若い俳誌で、行政の世界で長らく活躍された主宰野田禎男氏の気力の充実ぶりがうかがえる。

どこの宿より冬萌の此処が好き      富田潮児

  • 2008/06/14(土) 00:20:37

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どこの宿より冬萌の此処が好き      富田潮児
                      「若竹」二月号〈夢窓庵随唱〉より


 今までいろいろなところを旅してきた。

 豪華な調度の部屋もあれば、贅沢な料理を給する宿もあったのだが、この窓から冬萌の景色が見えるこの宿が一番良い、というのである。

 さりげない部屋のさりげない眺め、しかしそこには一番幸せな人と自然の営みがあるのだ。

 富田潮児氏は明治四三年生まれ、主宰していた「若竹」を一八年前に加古宗也氏に継承し、百歳に近い今も健在な詠みぶりである。

 句柄に自在さが加わり、ますます奥行きが深くなった。

 明治、大正、昭和、平成を生き、行き着いた心境の一端が垣間見える佳句である。

花八つ手夕暮はまだその先に      雨宮きぬよ

  • 2008/06/08(日) 14:17:42



花八つ手夕暮はまだその先に      雨宮きぬよ
                         「百磴」二月号〈雪蛍〉より


 八つ手の花は、いかにも初冬に咲く花らしい控えめな風情をしている。

 大きな円錐形の花穂をなして、無数の小さな白い花が毬のようにいくつも咲くその表情は、これからの厳しい寒さを内包したものとも言える。

 この花は、まだ暖かな陽の残る昼と夕暮の微妙な間合いにこそふさわしい。

 一日が終わる漠とした寂しさ、これから冬へと向かう静かな時の移ろいが「花八つ手」に凝縮されているかのようだ。

 草間時彦氏の句に「淡々と日暮が来たり花八つ手」があり、これに呼応するかのような掲句に余韻の深さを感じる。