引潮に鴨と行つたり来たりかな      須佐薫子

  • 2008/07/06(日) 23:13:28

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引潮に鴨と行つたり来たりかな      須佐薫子
                        「帆船」三月号〈鎌倉山〉より


 作者は鎌倉山から穏やかな春の海を眺めている。

 海は寄せては返す満ち引きの永遠の運動を続けている。

 そこへ波間に漂う鴨が一羽、潮の満ち引きに合わせて行ったり来たりしている。

 そして、それを眺めている作者も、波間に浮かぶ鴨と一体化して、春の波に行ったり来たりの揺れを楽しんでいるのである。

 表現として、「鴨の行ったり来たり」ではなく、「鴨と行ったり来たり」としているのがポイント、前者であれば平凡な情景句であるが、後者の表現をとったことで、極めて主観的なすぐれた句となった。

 俳句は一人称の文学であることを改めて気付かせてくれる作品である。